9月の出来事 その①  〜 ブレーメンでの演奏会 〜

 ハンブルクは川や海が近いせいもあって、潮風の様な風が吹き、体感温度は更に寒く感じます。ドイツでは我が大切な友 “ホッカイロ” が売っていないので、ドイツで販売したら売れるのではなかろうか、と常々感じているのですが・・・それともやはり体温の高いヨーロッパ人には必要ないのでしょうか・・・羨ましい限りです。
 そしてハンブルクではカモメを至る所で見ますが、先日通学途中に今までで一番間近でカモメを見ました。確実に私にエサを期待していたのでしょうが、私を目がけて飛んできてくれました。でもその時カバンに入っていた唯一の食べ物はのど飴。残念ながらさすがにお裾分けはできませんでしたが、とてもくりくりした目でこちらに近づいてきて、しっかりポーズを決めてくれたので、写真に収めさせてもらいました。(なんだか毎回動物の写真が多くて申し訳ありませんが、どうも至る所で動物が目に入ってしまいます・・・。)





さて、引き続いて今日も過ぎし日の事を書こうと思います。
今回は9月の出来事 その①です。

9月20日に学校の同期生と一緒にブレーメンへ演奏旅行に行きました。
会場はブレーメンにある教会でした。
当日は気持ちの良いお天気で、気分も明るくハンブルク中央駅からRegional( 地域内快速列車 )に揺られること約1時間半。あっという間に着きました。
現地に到着して会場入りをし、リハーサル後は18時からの本番に向けてそれぞれ思い思いの時間を楽屋で過ごしました。

今回私が歌わせて頂いた曲はR.シュトラウスの“ Wasserrose ”( 睡蓮 ) とファニー・ヘンゼル・メンデルスゾーン作曲のバリトンとの2重唱 “ In der stillen Mitternacht ” ( 静かな真夜中に )の2曲でした。
“ 睡蓮 ”という曲はR.シュトラウスの4つの歌曲(作品22)「乙女の花」(1. Kornblumen ( 矢車草 )、2. Mohnblumen ( ケシの花 )、3. Epheu ( 木蔦 )、4. Wasserrose ( 睡蓮 ) )の4曲目にあたる曲です。
この曲は学部3年生の時に、今は亡き師匠の朝倉蒼生先生が勧めて下さってその年に参加した友愛ドイツリート歌曲コンクール学生の部の本選で歌った思い出の曲でした。
当時はまだ、ハーモニーの色彩が次々に移り変わっていくR. シュトラウスならではの世界観に馴染めないまま歌っていた様に思います。
当時、朝倉先生が「あなたの声はR. シュトラウスも合うわね。」と言って下さったのですが、私は当時R. シュトラウスの音楽の波について行けずに苦手意識ばかりが先に立っていたので、先生につい、「先生、R.シュトラウスの音楽って、ハーモニーもよく分からなくて理解しずらくて、私にとって難し過ぎて歌いにくいんです・・・。」とはっきり言ってしまったのを今でも覚えています。先生は「あら、そう〜?」と不思議そうな顔をなさっていましたが・・・当時の私にはそう言わざるを得なかったのです。それが本心でした。

今となっては、R. シュトラウスの色彩豊かな次から次に溢れる様に出現するハーモニーがたまらなく好きですが、時間が経たないとその “良さ” がわからないものもあるのですね。年をとるのは好きではありませんが、でも年を重ねるって大切な事ですね。

そんなわけで、昔歌った曲を掘り返して歌ったので、当時の癖などもついていて、レッスンでは色々と注意されましたが、今回の演奏を通してこの曲が更に好きになりました。
歌詞の内容はとても幻想的で、月の光に照らされた池の水面の上で静かに咲く睡蓮、銀色の世界が描かれている素晴らしい作品です。一つのフレーズがとても長く、それでいて繊細に歌うべき箇所が沢山出て来るので、とても難しい作品ではありますが、この曲の世界観がとても好きです。

そして、ファニー・ヘンゼル・メンデルスゾーン( 以後 F.ヘンゼル )の2重唱。F.ヘンゼルはあのフェリックス・メンデルスゾーンの姉としても有名ですが、彼女自身ピアニストでもあり女流作曲家でもあった人でした。今現在は再注目されている作曲家の一人のようでで、音大での勉強会や演奏会、販売されているCDのプログラムの中でもその名前は良く目にしますが、やはり弟の方が今でも知名度は高いのかもしれません。でも噂によると、弟メンデルスゾーンの作品も姉のF.ヘンゼルが書き、弟の名前で世の中に出した作品もいくつもあり、実際は彼女の方が音楽的才能があったのではないか、という話も聞いたこともあります。やはり女性が男性と同等に名前を世に出せない当時の時代背景の影響もあったのではないでしょうか。

この曲は今回初めて歌わせて頂きました。あまり知られていない作品で、演奏時間はそこまで長くはありませんが、とてもドラマチックな曲です。11世紀のスペインが舞台の、若き将軍ロドリーゴとその恋人のヒメネが愛と苦悩を歌った作品です。バリトンと聞くと、オペラでは大体が父親役か悪役か、神様のような役か、といった役が多いですが、今回は恋人の役。ソプラノは彼に自分の父親を殺されてしまい、憎悪と愛の狭間で苦しむ女性の役。全く余計な話ですが、お父さんっ子の私としても想像しただけで心が痛む作品です。曲調は最後まで暗〜い雰囲気だったので、歌っていても重〜い、悲し〜い作品でした。(形容詞の間に“ 〜 ”を入れないとやっていられません。)
この曲はもう少し歌い方、解釈に熟考と練習が必要だと感じました。

今回の教会はとにかく響きがありずぎてしまい、まるで銭湯で歌っている様な感覚に陥りました。今回はどちらもそこまでテンポの早い曲ではありませんでしたが、それでもやはり教会には教会の響きに合った曲を演奏するのが一番素敵だと感じた時間でもありました。その空間に合った選曲も大切ですね。

私はこの3日後にハンブルクで本番があった為、終演後ブレーメンに宿泊せずに急いで帰って来てしまったので、残念ながらゆっくり市内を観光する時間がありませんでしたが、いつかゆっくり訪れてみたい街の一つです。


会場の教会にて、リハーサル前。
演奏風景
かなりブレてしまっていてますが・・・。

有名なブレーメンの音楽隊の像。
今回市内を見学できなかったので、ブレーメン駅で買ったハガキ(一部)をお借りして。
よく考えると、これも動物でした。