8月の出来事 その①《マスタークラス in シュレースヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭 》



ハンブルクのシンボルともいっていいミヒャエル教会。
雪の降る日に。

師が走ると書いて「師走」。
師でも何でも無い私ですが、毎日色々と走っております・・・(これは12月に限った事ではありませんが。)

12月といえば!待ちに待ったクリスマスがもうすぐそこまでやってきました。(とはいうものの、今年は物凄くあっという間に12月になってしまい、心の準備もないままにもうクリスマスを迎えそうですが。。。)
日本は仏教国でありながら、クリスマスもイベントの一つで、更に新年もお祝いするので、とても忙しい国だと思います。ドイツは新年よりもクリスマスの方に重きが置かれています。クリスマスに向けてアドベント(イエス・キリストの降誕を待ち望む期間)が既に始まり、巷では4本セットのロウソクがあちらこちらで売られ、今年は11月29日日曜日が第一アドベント、12月6日が第二アドベント、12月12日が第三アドベント、そして12月20日がいよいよ第四アドベントです。第一アドベントから一本ずつロウソクを灯していき、第四アドベントには4本全てのロウソクが灯ります。ブログをアップする今日がその第4アドベントの日曜日でした。ということで、今日ついに4本のロウソクに火が灯りました。ロウソクの揺らぎながらも上に上にと燃える炎を見ると、心に火が灯るような気分になります。



そしてついに雪が降りました!といっても降ったのはたった1日だけ降って、また少し暖かくなって、今現在はさらに生ぬるい気温が続いています。なんと、、、街中の桜の花が勘違いして花を咲かせていました・・・。異常気象ですね。
でも、雪の降る日は本当に美しく、今年も雪景色が1日でも見られて幸いでした。

走る電車からの景色
Blankenese駅
さて、8月は沢山の事があったので、2回に分けて書こうと思います。
第一弾は、8月頭から始まったマスタークラスについて。
毎年夏に北ドイツではシュレースヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭が開かれます。その一環でリューベック音楽大学で2つの声楽マスタークラスが開かれました。事前に音源審査があり、選ばれないとマスタークラスを受講出来ないので、どちらか1つでも受講できればと思い、今回先生と相談しても2つとも応募してみることにしました。

結果、ありがたい事に2つのマスタークラスを両方受講できるという通知を受け取り、リューベックに2週間滞在する事にまりました。ただ、一つ目のマスタークラスと二つ目のマスタークラスの間が1日しかなく、かなりの強行突破なスケジュールに、欲張って応募してしまったは良いけれど、乗り切れるかな・・・という不安もありました。というのも毎回マスタークラスは公開レッスンが殆どでもちろん緊張もしますし、歌っているレッスン時間は長くなくとも、考える事や課題が沢山あるので、楽しいながらも数日間でぐったりします。
そんな不安と期待を抱きながら、ハンブルク中央駅から電車で45分のリューベックへ2週間分の荷物をスーツケースに詰めて向かいました。

リューベックのシンボル、ホルステン門。15世紀に建造された城門。旧市街の入り口に建っています。
真ん中が地面に沈み込んでいますが、作り立て当時には既に重さで沈み込んでしまったそうです。因みにこれも世界遺産に登録されているそうです。



リューベックの旧市街は世界遺産になっている都市で(以前も書いたかもしれませんが。?)、ハンブルクよりも石畳が多くあり、転がしているスーツケースが壊れるかと思いましたが、なんとか無事にマスタークラスが準備してくれているホテルに到着。
しかし、、、用意されてたお部屋は5階。エレベーターなし。ホテルはユーゲントホテル(安い宿)なので、もちろんベルボーイなんていません。自分で5階までスーツケースを運ばなくていけなく、歌う前以上の気合をいれて5階まで運びました。
お部屋は広くはなく屋根裏部屋のような感じでしたが、一人部屋で(二人部屋の受講生もいました。)洗面所もついていて、窓からはJ.S.バッハも訪れたマリエン教会の2つの塔が見えるお部屋でした。マリエン教会(これも世界遺産)は1250年から1340年にかけて作られたゴシック様式の巨大な教会でドイツでは3番目に大きい教会、レンガ造りの教会の中では1番の大きさだそうです。(教会には後日訪れたので、教会の中の写真は2回目のブログで載せる事にします。)

窓から見えるマリエン教会の塔。ちょっと工事していましたが、この景色は気に入りました。
毎時間、この塔から時間を知らせる鐘が音楽と時間の数を打ちます。音楽はなんとも音痴で可愛らしいハーモニーで(音がくるっているのは古いからでしょう。)夜中の12時にも音楽を奏でた後にご丁寧に12回鐘がなります。住人の睡眠の妨げになっていないのか、、、と毎日思っていましたが・・・。


お部屋に着いてすぐ窓を見るとラブラブな鳩のペアが迎えてくれました。(笑)
なんとも仲睦まじい可愛いカップルでした。


 さて、1つ目のマスタークラスは、今年の5月にも一度受講した、マルグリート・ホーニヒ先生のマスタークラスでした。この先生はとても人気のある先生で、ホーニヒ先生曰く、今回かなり多くの応募があったそうで、選んでいただけたのはとてもラッキーでした。
受講生は、ドイツ人、スイス人、ブラジル人、ギリシャ人等、全部で10名。音大の学生からドイツ、スイスのオペラ劇場で歌っている歌手も参加していて、今回テノール以外の声種がいました。
 シュレースヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭 マスタークラスのポスター
リューベックらしい町並み。リューベック音大が右手にあります。
隣り合っている幾つもの建物の中を繋げて、ひとつの音大になっているので、中に入るとなんとも違和感のある不思議な構造で、中はもう迷路の様でした・・・。何度迷ったことか・・・。

ここのマスタークラスは、今まで受けたマスタークラスの中で一番受講生のレベルが高かったと感じています。1日目からレッスンが行われ、皆の演奏を聴いて、皆本当に素晴らしい歌手ばかり、私がここで受講していいのでしょうか・・・と思ってしまう程でした。声質も文句の付けようがないほど美声の歌手ばかりで、彼らのレッスンを側で聴講しているだけでも、とても勉強になりました。
レッスンは全日公開で、聴講にも沢山の方々が来ていました。私の声楽の先生、コレペティトゥアの先生もハンブルクからわざわざ来てくださり、他にも声楽の教える方に携わっている先生方(ハンブルク音大の教授陣)なども沢山お出でになっていました。

ホーニヒ先生のマスタークラスは2度目でしたが、今回も身体の使い方、呼吸の仕方をみっちりレッスンして頂きました。ただ、1人のレッスン時間が30分と短く、もう少し長いと嬉しいと思いましたが、それでも30分でもぐったりするほど、濃厚な30分でした。
ピアニストはフライブルク音大から呼ばれていたコレペティトゥアで、どんな歌い方をしても、すぐについてきてくれる素晴らしいピアニストでした。
今回はオペラアリアを中心にレッスンして頂き、上手く歌えた部分、そしてこれからの課題の部分とありましたが、フレーズの音型ごとに身体の使い方を使い分けるテクニックは、今回は2度目ということもあってより理解しやすくなったと感じました。
まだ克服するべき弱点がありますが、先生から教えて頂いたテクニックは一つの宝になりました。

マスタークラス会場のエントランス

マスタークラスの会場
マスタークラス風景


マスタークラス、最終日の打ち上げで他の受講生達と。

こうして1つ目のマスタークラスは終わりました。
一日休みがあったので、洗濯物をもってハンブルクに一度帰り、その日のうちにまたリューベックに戻って来ました。

次の日から、2つ目のマスタークラスが始まりました。
モーツァルト歌手で世界的に有名なソプラノ歌手、エディト・マティスのマスタークラスでした。受講生はまたガラッと雰囲気が変わり、ドイツ人、スイス人、韓国人、そして日本人の私の全8名。全員ソプラノでした。今回、"モーツァルトの作品"というテーマをマティス先生から出されていました。その他の作曲者の作品を見ていただいた日もありましたが、モーツァルトの作品を中心にレッスンして頂きました。
マティス先生のマスタークラスの最終日には修了コンサートがプログラムに組まれてあったので、そのコンサートに向けてもレッスンをして頂きました。
初日は前のマスタークラスを受けていたこともあり、連日の疲れが少し溜まっていましたが、なんとかレッスンを歌い終わると、まず一緒にいらしていたマティス先生の旦那さんから「あなたはとても素晴らしい歌手ですね。今回妻のマティスが、あなたにレッスンすることができてとても喜んでいます。」と声をかけて頂きました。
お世辞でもとても嬉しいです、と答えていると、すぐ近くにいたマティス先生も近くにいらして、日本語で「ホントデス!」とおっしゃって下さいました。
そのあと、声の質や音楽のことを大変褒めてくださり、嬉しい反面、初日から私のハードルが上がってしまって、疲労も溜まってきていたので明日以降大丈夫なのだろうか・・・という不安も感じたのは言うまでもありません。
しかし、マティス先生の旦那さんはとても親日家で秋には京都の旅館に泊まる予定だと、嬉しそうに話してくださり、毎日「加藤サ〜ン、オハヨウゴザイマス〜!」と日本語で話しかけてくださって、私のレッスン時間に合わせて、ホテルから駆けつけてくだっていたので、毎日励まされながら過ごしていました。

マティス先生のレッスンはホーニッヒ先生のレッスンとはまた違い、音楽的な解釈、表現方法を中心にレッスンしてくださいました。先生はもうだいぶご高齢と思いますが、先生がお手本で1フレーズ目の前の歌ってくださるその音楽は、本当に素晴らしく、ほんの短いフレーズなのに、ため息が出てしまうほど美しく、世界トップレベルの歌手のタレントに衝撃を受けました。真似しようとしても、早々簡単には行きませんでしたが、これもとても良い経験でした。
3日目あたりに、ちょっと雰囲気を変えようと、A.ヴェーベルンの歌曲をレッスンに持って行ったのですが、ヴェーベルンはマティス氏も旦那さんもお好きではなかったようで、一応レッスンはしてくださいましたが、終わってから旦那さんに「なんでヴェーベルンなんか歌ったの〜??ヴェーベルンは音楽ではない〜!」と言われました。マティス先生は以前ウィーン国立音大で教鞭をとっていらっしゃので、ヴェーベルンもウィーンの作曲家でもあるし、私も大学院の修了演奏と論文で取り上げた作曲家だったので、良いかな、と思ったのですが、好みは人それぞれですね。(笑)
でも、確かに、今は亡き恩師である朝倉蒼生先生から、「ヴェーベルンは全くわからないわ〜。あれはどう評価していいのかしら。」と仰っていたことを思い出しました。
シェーンベルク、ヴェーベルン、ベルクの新ウィーン楽派の中でも、ヴェーベルンは特に理解に苦しむ作品なのかもしれません。不協の様なハーモニーやメロディーもある所まで行くと、美しく感じるようになり、その音幅がクセになって面白いのですが。。。
ヴェーベルンの残した言葉、「少しでも私の音楽を理解してもらえたなら・・・。」という言葉も同時に思い出し、同情心さえ湧いてきました。

ということで、気をとりなおして次の日はまたモーツァルトの作品を持って行きました。
修了コンサートは受講生8人の中から先生に選ばれた受講生が演奏できるという事だったので、誰が歌わせてもらえるのだろうか、と思っていましたが、今まで長く歌ってきたモーツァルトのアリアを歌った時に、これを修了コンサートで歌ってください、とマティス先生から言われたので、なんとか修了コンサートに出演させていただく事に。

そしてマスタークラス中、忘れもしないある出来事がありました。
あるおばあさまからある日話しかけられたのですが、毎年、このマスタークラスに聴講に来ていらっしゃる方で、演奏を聴いて、毎年気に入った受講生の受講料を奨学金として代わりに払っているそうです。そのおばあさま、昔音楽教室の先生をしていて、その後スペインに移り住み、またドイツに帰ってこられたそうです。たまたま私のレッスン時に聴きにいらしていて、なんと今回の私の受講料をプレゼントしてくださいました・・・。でもなんとも申し訳ない気持ちだったので、事務所の方に伺うと、もう常連さんで毎年1000ユーロをこのマスタークラスに寄付しているそうで、後日受講料を銀行口座に返金します。とあっさり言われたので、今回は神様からのご褒美だと思って、ありがたく受け取らせていただくことにしました。
このようなマスタークラスの受講料がそのまま返ってくるなんて、人生初めてのことで、そして学生中でしたので本当に感謝でした。
しかも空き時間におばあさまが、今滞在しているお部屋に招待してくださり、コーヒーとマフィンをご馳走になり、ドイツ歌曲のテキストの読みの練習にも付き合ってくださり、大変感謝でした。友人に聞いた所、ドイツではこういう話はたまにあるそうで、その友人も違うマスタークラスを受けた時に受講料分の奨学金を頂いたと言っていました。
そういう方々のお陰で音楽家は成り立っているのだ、と改めて実感しました。

今回、同時期にバイオリンのマスタークラスも開かれていて修了コンサートはバイオリン、弦楽器の受講生と合同だったので、ジュリアード音楽院で勉強中のスウェーデン人のバイオリニストと一緒にモーツァルトの歌劇「Il Re Pastore 羊飼いの王様」より "L'ameròsarò costante"(彼女を愛そう、心変わりはしない) を演奏させていただきました。
マスタークラス in シュレースヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭は有名な演奏会なのか(マスタークラスを受けるまで全然知りませんでしたが・・・)、コンサートホールは一般のお客さんで満席。ただし、夏で暑いのにクーラーがないというドイツ特有の環境で、演奏者も汗だく、お客さんも汗だく、という忘れられない会場の空気でした。
私は2部に歌わせて頂きましたが、
演奏が終わると聴衆の方々が温かく拍手してくださり、とても充実した気持ちで演奏会を終えることができました。
コンサート終了後にマティス先生から「とてもよく演奏していましたよ。」というお褒めの言葉を頂き、私の中で名物おじさんになりつつある旦那さんからも「君の演奏後が一番拍手が大きかったよ。聞こえてた?」と嬉しそうに言われましたが、正直な所、緊張していたので全然聞こえていませんでした・・・。
その後はマティス先生、旦那さん、受講生で一つのテーブルを囲み、夜遅くまで語らいました。(韓国人の受講生は前日に帰ってしまったため、私以外は皆母国語がドイツ語。もうその喋る早さに、頭は途中から完全に飽和状態でしたが・・・。)
そして、この時一番印象にに残っている会話は、旦那さんから言われた一言。
私は「マティス先生の様に歌えるようになりたいです。」とお二人にいうと、旦那さんから「人はそれぞれ一人一人違うものだよ。人の様に歌うのではなく、加藤さんは加藤さんの歌を歌ってください。」とおっしゃって下さり、ハッとさせられました。
皆それぞれ違った器で神様から創造されているのだから、オリジナルの私で、私自身の声で、私の歌を歌う。これが一番なんだ、と改めて気がつかされました。
私には立派な声はなく、正直なところ、小さく細い声にいつもコンプレックスを持ち、オペラが楽々歌える声だったら何て良いのだろうか、と他の歌手を羨ましく思う気持ちがいつもありましたが、与えられた声と身体は変えることはできないし、いかに与えられたしかるべき場所で、自分らしい歌を歌うために、努力して自己と戦っていく事の大切さも改めて学びました。
すぐに忘れては思い出し、また忘れて・・・の連続ですが、また思い出して(笑)自分の心に刻んで、歌っていきたいと思います。

2週間のリューベック生活はこうして終わりました。
長かった様であっという間の2週間。素晴らしい経験をさせていただけた事に感謝します。

終演後、出演者と。
コンサートで共演したヴァイオリニストのPhilip Zuckermanと。
素晴らしい音色でした。

ピアニストのDieter Papier氏と。彼はウィーン国立音大で教えていらっしゃいます。
彼からのアドバイスは私にとってとてもためになりました。


マスタークラス終了後の打ち上げ、受講生、マティス氏、マティス氏の旦那さんと。

マティス氏、旦那さん、受講生と。

後日、インターネットの地元紙にこの修了コンサートの講評が載りました。
ありがたい事に、短いですが以下の様な講評を頂きました。ドイツでこうして書いていただけた事は、これからの励みになりました。

"Unter den großartigen Sängerinnen ragte die mehrfach ausgezeichnete Japanerin Mai Kato hervor. "(素晴らしい歌手陣の中で、日本人の加藤麻衣が抜きん出ていた。)
Das Regionale der Nord-Ostsee-Magazineより。http://www.luebeck-szene.de/news-blog-luebeck/news/luebeck-junge-elite-der-meisterkurse-stellte-sich-vor.html 


修了コンサートの演奏は以下のリンクからYoutubeで見られます。
(音質があまり良くないので、あらかじめご了承下さい。)




リューベックの夕焼け
とても良い街でした。




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